きみとぼく 第12話


ドン、という音の後にドン、と再び音が響いた。

「ずれたか。でもいい感じだ。もう一度やるぞ」
「痛っ・・・、うん、わかってる」

痛そうな声を耳にして、大人しく寝てなどいられない。

「やはり、俺も・・・っ、」

かすれたような声に自分でも驚きながら体を起こそうとしたが、痛みで体が震えた。暑い、汗もひどい。喉がカラカラだ。幸いこの中は酸欠にならない程度の隙間があるようだが、熱までは逃してくれない。熱が狭い引き出しの中にこもる。仮面を外した状態でも熱気で息苦しい。

「けが人は寝てろ」
「もう少し二人でやらせて」

何度も試みたことで、端から端の距離を掴んだ二人は、そう言いながら歩いた。布団をどけた引き出しが木の板だったのは運が良かった。滑りにくく、走りやすい。力も込めやすい。

「行くぞ、3・2・1・0!」

合図に合わせて二人は駆け出す。
中身は子供に戻っても、体は変わらない。
だから全力で走る速さも変わらない。
二人は走った勢いそのままに、正面の壁に体当たりをした。
ドン!!と、今度は同時に鳴る。それに合わせて僅かに床が動いた。

「・・・もう一度だ」
「うん」

何度も何度も繰り返したため、体が痛い。体当たりをしている部分は痛みで感覚をなくしかけていた。だが、着実に引き出しは開いていく。後数度で頭が通るだろう。通りさえすればこっちのものだ。

「いくぞ、3・2・1・0!」

ドン、ドン!と、若干ずれたが、床も少し動いた。
予想通り数度繰り返した結果、どうにか頭が通るようになった。幸い部屋の中は明かりが灯っている。ゼロの仮面をかぶり、ジュリアスの背を踏み台にし、よじ登った。
そこは予想通りの場所だったため、小さく安堵の息を吐いた。引き出しの縁に腰掛け、ジュリアスに運ばせた布団を引き上げ、サイドテーブルの上へと移動させた。三人分運ぶと、今度は皇帝だ。ジュリアスが持ち上げ、ゼロが引き上げた。この時点でもう三人ともヘロヘロだったが、どうにかジュリアスも引き出しから引き上げ、三人はクタクタになった体を布団の上に投げ出した。

「ぜぇ、はぁ、なんとか出れたな」
「はぁ、はぁ、疲れた」
「はぁ、はぁ、ごほっごほっ」

水はこのサイドテーブルに置かれた水差しに入っている。
これもまた難関だ。
だが、少なくてもあの暑い場所からは出られた。

「少し休んだら、今度は水だ。はぁ、はぁ」
「ぜぇ、はぁ、わかった」
「はぁ、はぁ、すまないな」
「水は全員に必要なものだ。はぁ、はぁ。しかし何を考えていたんだ、あのバカが」
「おそらく、俺達を者ではなく物としてみているんだろう。当然だ、俺もこんな小人を見れば機械じかけの道具だと思うだろうな」
「たしかにそれは一理あるが、なぜ俺たちはここに」

こんな姿で、この場所に、こんなふうに別れて存在しているのだろう?

「俺達が、俺達なのかもわからないが」
「?どういうこと?」
「いや、これは知らなくていいことだ」

皇帝とゼロにはゼロレクイエムの記憶があるが、ジュリアスにはない。当然だ。幼児退行しているのだから、何も知るはずがない。何よりこれに関わっているのは、ゼロと皇帝でジュリアスは一切関わらないことだから。

「体を休めている間に頭を使うべきだな。酸素もようやく脳に回ってきた」
「あの水差しを動かすのは至難の業だが・・・」

そう、これだけ重量があり、自分たちより重く大きなものだ。
倒すことは可能だが、さて、どうするべきか。
そんなことを考えていると、部屋の扉が静かに開いた。

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